温風至−オンプウイタル−


雨あがりの夕刻。
黒い雲。ひとしきり降った夕立。
ムッと押し寄せる、重量感のある気配の内から涼風が立ち、
ふと甘い香りに鼻孔をくすぐられた一瞬…。
湿り気を帯びて濃厚さを増したその芳香には、確かな存在感を
感じさせられます。
でも紫陽花のように目立つこともなく、静かに咲いてはすぐに色褪せてしまう…

梔子…花ひらくとともに清純な白さが現れます。
甘い香りを花びらの一枚一枚にたっぷり含んでいるような
そして全く汚れのない白色の花。
その真白に鼻先を近づけて瑞瑞しい芳香に酔うひと時…。
人工的には製造できない、化学香料の集結でもない清らかな甘い灯。
梔子をみかけるとつい引き込まれ、いく度も顔を近づけ目を閉じては
立ちつくして甘香の余韻に浸ります。
―それはやがて梅雨が明け、夏空に映える向日葵が太陽に顔を向ける姿を
みる日々が訪れるまでの、この時期だけの微かな楽しみごとのひとつと
なりました。
どんよりと、ジメジメが不快指数を上昇させる季節ですけれど
みなさんはどのような素敵な楽しみごとをしていらっしゃいますか?
サクラサク

「そろそろですね−」
「まだ、でしょうかねェ」
この季節、多くの日本人の心は共通の関心事でつながっています…。

四季を感じることのできる日本。
どの季節にも景色があり、風情があって、五感を研ぎ澄ませながら
その移ろいを楽しめますが、とりわけこの時期の「桜」にはさまざまな
想いの眼差しが注がれているような気がします。
入学、卒業、就職、引越し…出会い、別離…
そして又出会い…を繰り返しながら私達の毎日があります。
学生でなくとも、何かの節目などを自分の定めた「卒業」と捉えて成長を
なす経験もあるように思います…。
そして卒業をした先にあるのは未知の世界です。
期待より不安なことの方が上回る場合もあるでしょう。
通い慣れた道や座り慣れた椅子、自分の所在を確かなものとしていた
ネームプレートetc…のようなものに包まれているのは居心地の
良いものです。
何かを卒業すると同時にそのようなものは消えてしまうこともありますが、新たに展開する未知の世界で又、居心地の良い場所を人は創り始めていきます。

桜の開花を心待ちにする私達。
その桜への想いはさまざまでも、「桜」からは必ず受け取ることができる
のが植物の生命力。
美しく、逞しく、生命力に溢れる桜の木を仰ぎ見ては憧れ、大地を蹴る自分の
足の強さをおもわず確かめたくなる季節です…
《節分》

節分は旧暦だと12月の大晦日。立春(新春)の前日にあたります。
豆を打って邪気を祓い、新しい一年を迎えるとされた行事が豆まきの由来だそうです。
玄関先には柊を飾って厄払いとしますが、この柊の葉は固くぎざぎざとして
花活けの際にも指をチクりと刺しますので、なるほど鬼が嫌うというのも納得します。
東京では一昨日に初積雪をみましたけれど、
立春を過ぎれば徐々に気温も上がって春めき、又それが待ち遠しくもありますね。
昨年の立春、生命の息吹と共に一瞬にして春を広げみせてくれた蘭の小花が
今年は一足先に目を醒ましていました。

真冬の日照も弱く気温の低い朝に突然、
雪洞のような暖かさに包まれた光りの中で静々と微笑むように花開き、
今年も嬉しい驚きと生命のメッセージを私に届けてくれたのです。
ところで、豆まき用として販売されている大豆が
年々美味になっていくように思っているのは食いしん坊の私だけでしょうか…